2005年7月期「修行志願者現る!」



日々修行でも簡単にUPしましたが、5月中旬に修行志願者が堺に来ました。
始まりはメールでの問い合わせで、将来職人になりたいとの事。
職人さんに相談してみると、一度見てみるのも良いだろうと見学が実現した。
彼は大学生で、言わば就職活動?会社訪問にあたるのかも知れない。

職人さんから親切に工程などを説明して頂き、このような工程を経て出来る
と言う事を教えて頂いた。
初日ご前中は土井さんの鍛冶屋工程。昼前から刃付組合理事の小田さんから
職人とは!っと言う話を詳しくお伺いした。

真剣な眼差しで作業を見学!


小田さんとは良く話をさせて頂いているけれども、刃付け方法や歪みなどの
製造関係の話の内容がほとんどで、職人の精神についてはあまり聞いた事が
なかったので、一緒に貴重な話を聞かせて頂いた。

小田さんが何を想って包丁を研ぐのか!興味深い内容だった。
何を想って研ぐのかと言うと、板前さん(調理師さん)の事を考えて研ぐ。
お客さんが手にした時の事を考えて研ぐと言って居られました。
酔心(卸問屋)以上に沢山の包丁を扱う職人さんからすれば100丁の1丁で
も1丁の1丁っと豪語されていたのが印象的でした。

これは僕も同じ意見で、10丁あってその内の1丁がイケてないとしたら、
10丁の1丁っと言う事で大目に見てしまう傾向があります。錯覚に近いのかも!

しかし、お客さんからすれば1丁の1丁なので、もしもそのイケてない包丁
を今お読みのあなたの手元に来たならば最悪な事だと思いませんか?
誰が、何処で、どんな風に使うかも考えて製造販売するのが重要だと思っています。

っと話は戻って、小田さん(職人)は沢山の包丁を研ぐわけです。
1丁たりとも手を抜く事は出来ないっと言う事を志願者に強く言っていました。
更に印象的なのが、金儲けに走ると品質が落ちると言う事。
短時間で沢山仕上れば沢山のお金をもらえる事になります。
短時間で・・・っと言う事はどこかで手を抜く事になります。
金儲けがしたかったら良い職人にはなれないとも言っていました。
「そんなヤツもおるけどな(笑)」っと笑っていたような・・・(^^;

その後は、簡単な工程と荒研ぎの大変さなどを詳しく聞いて8月頃に仮修行で
小田さんの元へ仮弟子入りと言う約束をされて小田さんとの話を終えました。


土井さんにしても小田さんにしても、最終的には良い包丁を良い状態でお客さん
に届ける事を考えて製造されています。
考えてみてください、土井さんのページで各工程を紹介していますが、工程以上
に火造りなどで温度管理をして失敗するかしないかの微妙な温度で製造するわけ
です。失敗したら一から全てやり直し。何故にそこまで手をいれるのか??
それは良い包丁を造りたいと言う一心なんだと思います。
さて、修行志願者の彼は一途に取り組めるのだろうか!全ては8月頃の実践修行
で決まるのかも知れません。
もしも、大学卒業後に堺で職人として仕事を開始する事にならば僕が40歳50歳に
なった時、仕事を発注する関係になるかも知れません。

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翌日は、近代的な方向の鍛冶屋さんへ訪問させて頂いた。
沢山の包丁を上げる事が出来る設備を持った鍛冶屋さんである。
鍛冶屋と言うよりも工場と言った感じだ!コークスなんて使ってない。
プロパンガスや電熱コイルで包丁を赤める方式で、効率は良い感じだった。

写真中央付近のトンネルに包丁を入れる! 近代的な鍛冶屋さんの作業場。電圧機が!

おなじみ土井さんの作業場周辺。コークスと松炭がある。

そんな鍛冶屋さんは量産系の・・・っと思うかも知れないが、きっちり鍛造作業
が行われていた。*1ベト落としや、型断ちを機械で行っていたのが印象的だ。

*1ベト落とし
火造りの際に、包丁が酸化鉄で覆われます。これを叩いたりして落とします。
この作業が正確に行われないと酸化鉄が包丁内部に叩き込まれてその部分にキズ
が出ます。下記写真は、ベト穴と言って酸化鉄を叩き込んでしまった結果です。
(ベトが付いた包丁の写真を載せるベキでしたね・・・。)

赤い矢印部分がベト穴です。この位置ならば使用に問題ない
ですが、この部分まで研げばその部分は欠けたようになります。

ベト落としを機械で行うのですが、従来包丁をハンマーで叩いていた物を下記写真の
中に居れて鉄粉を吹き付けます。これでベトを完全に落として包丁の生部分を出します。
キズを無くし効率良く製造するには欠かせない機械です。

叩いてベト落とししたであろう包丁中子

機械でベト落としした包丁中子です。
中子に細かい粉が当たった跡があります。
触るとザラザラしています。
通常中子は柄の中ですので、お客さん側での確認は難しいかも知れませんねぇ〜。

余談ですが、青二鋼や白二鋼は空気焼入れが入ってしまうので、ハンマーでベト落としを
行う場合は、暖める必要があります。こういった作業も省略する事が可能です。
もしも暖めないで叩くと割れたりするそうです・・(^^;大変ですね。

どちらが良いと言われると・・・叩いた方がエエかも知れませんね!
その理由は皆さんご存知の通りです。でも!しっかり叩いて完全にベトを落とさないと
ベト穴が出来てしまいます。これを卸屋さんで撥ねればOKなんですけど、そのまま行
くとお客さん側でのトラブルにもつながります。

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その内の一つの工場で青二鋼、白二鋼、白三綱、V金10号、白一鋼、青紙スーパー
など何でも打てる職人さんが、鎚を置いて話をして下さった。
「この仕事は好きじゃないと出来きへんで。」これを強く言っていた。
確かに、数回会社に来られた時に、「包丁造るのが好きなんや」「なんで焼き入
が入るんか、何で入らないんか、そんなのを悩んで出来た時は楽しい」っと言っ
ていた記憶が蘇えった。確かに土井さんとは少し工程が違うが実に楽しそうに包丁を火造っていく。
それも凄い早いテンポで!楽しいからドンドン製造して行く感じを受けた。 
その鍛冶屋さんの製品はどうなの?っと思うかも知れないが、安定している地が上がってくる。
商売的には凄く良い製品を上げて下さる職人さんである。

その鍛冶屋さんの2階には刃付け屋さんが入って居られて同じ建物で鍛冶屋と刃付け屋が居るのはココだけっと言っていました。その刃付け屋さんで、修行志願の彼が、某有名刃物メーカーの包丁の
ボカシ(霞)を体験させてもらった。彼が霞ませた包丁は、もう店頭に並んでいるのかな??
っと言うか、ここであのメーカーの包丁が研がれてるんだと知ってビックリ。
堺が和包丁の90%シェアがあるというのは本当ですね(^^)b

鍛冶屋さんと刃付け屋さんがセット?になっていると、通常は地で上がってくる物が
刃付け済みの状態で上がってきます。
これのメリットは、アイケなどのキズが出た場合、その場で即交換できる事です。
発注した数量が、安定して揃うと言う点では素晴らしい事です。
デメリットは、包丁を寝かせる事が難しい事です。

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その次ぎは、ステンレス鋼系(銀三綱)を打つ職人さんの工場を訪問。
こちらも凄い!プレス機があって、型断ちをコレで行う。その工場の親方は土井
さんと同じ年齢で、土井さんが伝統的な素材で伝統的な製法を受け継ぐのに対し
て、新しい素材にいち早く対応し、錆びに強い銀三綱を手がける職人さんである。
もちろん、白二鋼などの炭素鋼も打つ事が出来る職人さん。
この鍛冶屋さんは電熱コイルで包丁を赤めていた、職人さん曰く脱炭も少なく、
不純物も入りにくいから良いとの事!色々な考え方があるんだと思った。

何年か先の調理業界を読んで銀三鋼を手掛けたのは素晴らしいと思います。
最初は、錆びに強い包丁なんて・・・っと言われたようですが、最近は殆どが銀三鋼
の注文だそうです。

プレスの機械群とプレス機のアップ画像。写真は包丁の先部分で他には中子部分の金型
もあり、ガンガン抜いていた。

各工場を見学させて頂いて各職人さんから色々な話を聞かせて頂いて、個人的に
も勉強になりました。彼は、実際に目でみて炭の焼ける匂いや鎚の振動を感じて
来て良かったと言って頂けた。
職人さんの紹介のような特集になってしまいましたが、職人さんの気合や想い、
現状などを簡単にですが紹介してみました。

この様な職人さんの技術や、気合を酔心が組みたてて、調理師さんへ提供する
のは酔心の役割だと思います。職人さん達のコダワリを台無しにしないように
より一層頑張って行こうと思います。

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ここで終わり!っと思いきや、やはり他の情報も欲しいと言う方も居られると
思いますので追加特集デス!

包丁の焼き入れに「水焼」「油焼」っと言うのがあります。
さて、どっちが良いのでしょう? 一般論として僕が持っていたのは、

■水焼=硬く焼き入れが出来て鋭い切れ味が出せる!
■油焼=まったりとした焼き入れが出来て、粘りが出てまったり切れる。

これだけを見ると、水焼が良いような気がします。
事実、水焼の方が難しく焼きが入る温度が素材によっては狭く、焼き入れが
出来ない職人さんも多いと聞きます。
白三綱→白二鋼→青二鋼→白一鋼→青一鋼→青紙スーパーの順番で焼き入れ
温度幅が狭くなるんだったかな?? 日立の資料とはちょっと違う事を職人さんが
言われていたような・・・。現場の意見が正確でしょうね。

この焼き入れする時の水と油の事ですが、素材ごとにある程度の決め事がある
ようです。例えば白一鋼ならば、水焼でしかダメとか!
更に職人さんによって、水焼と油焼を使い分ける方が居られるようで、青ニ鋼は
油焼しかしないとか、白二鋼は水焼きで!言った具合になります。

やはり得て不得手があるのか、それとも職人さんの勘や親方から受け継がれた
製法の中でその素材に適した焼き入れ方法があるのかも知れません。

酔心では、そう言った事と色々と考慮して、包丁を製造していきます。
青二鋼水本焼と言うオーダーメイドが発生すれば、青二鋼を水で焼ける職人さん
へ発注します。他に白一鋼水本焼で!と受ければ白一鋼を水で焼ける職人さん
に発注します。 
職人さんにもよりますが、水で焼き入れ出来る職人さんは、水焼きを主張する為に
裏刻印に水本焼と打ち込みます。 例「酔心 白一鋼 水本焼」となります。
この「水」が無い物は、油焼きの可能性は否定できませんが、あまり深く書くと何処
かから何か言われそうなので、控えましょう!!

一応ですが、公的な資料には白一鋼、白二鋼、黄紙2号は水焼き入れの指定が!
白三綱、黄三鋼、青一鋼、青ニ鋼は、水、油の指定がありました。
油焼きの方は焼き入れ温度幅が少し広い感じです。水焼きの方が繊細な数値が
出ていました。
760℃〜800℃=差40℃って・・・赤くなった鉄の色を見分けて焼き入れを行うの
ですから難しいと思いませんか?温度計を使わないで温度を見極めるのは大変
です。お風呂のお湯で30℃と70℃を見分ける?感じるのとは次元が違います。

本焼に表示される「水」は、一種のランク表示と言いましょうか、エンブレムのような
感じだと思って下さい。


■鍛冶屋さんが考えるエエ包丁とは!■

今回書く鍛冶屋さんの意見を聞く事ができました。
鍛冶屋さんが、考える良い包丁とはどんな物なのか!

■良く切れる ■切れ味が長持ちする ■研ぎ易い
包丁は研いで使う物と言う意見が圧倒的に多かったです。
高硬度の包丁に関しては、あまり良い印象を持っていないようでした。
硬い方が切れるのは良く解るけれども、包丁は研ぐもんだ!です。

包丁は焼き入れ焼戻しの作業で上手く操作すれば、相当硬い物が作れるようです。
白二鋼などでもHRC67〜68などで製造する事が出来ると資料には載っています。
研ぎ易くしたければ、焼戻しを多くして柔らかくしてやれば良い!
しかし、それによって切れ味が低下する。しっかり叩いてやらないとパサパサになる。
そういった事を考えて、良い包丁になるように造ってると言う印象を受けました。

さらに、鏡面に関しても少々難色を示して居られました。
せっかく低温で鋼を気使って製造しても、鏡面にすると熱が出るから鍛冶屋的には
痛し痒しやね的な事を言って居られました。特に裏鏡面は出来るだけ止めて欲しい
と言って居られました。 この件は僕も過去に疑問を持って刃付け屋さんに問い合わ
せした事があります。刃付け屋さんでは、鏡面にする時に熱を出来るだけ出さない
加工方法がある程度確立されているので、そんなに心配する事は無いとの事でした。


■刃付け屋さんが、考えるエエ包丁とは!■

■良く切れる ■切れ味が長持ちする ■研ぎ易い
こちらも鍛冶屋さんと同じ事を言って居られました。この時に白三鋼の実力を聞かせ
て頂いたのです。 白二鋼、青二鋼もエエねんけど、白三鋼でもちゃんと造れば研ぎ
易くて良く切れる包丁になる。この件に関しての実践的見解は切れる包丁選びさんで!


一応今回のメインは修行志願者現るだったのですが、一緒に職人さん訪問させて
頂けたお陰で、良い情報を沢山得る事が出来ました。
今回この特集をパチパチ打っていて疑問に思った事が少し出ましたので、また工場を
訪問して色々と聞いてみようと思います。


■職人と技術者の境目■
日々修行にも少し書きましたが、職人と技術者の境目とは・・・?

職人は自分の思った通りに物を造る人。
技術者は相手側が求めた物を造る人。
っと言う話をしていました。

言い方を変えれば、職人の思想にあった物が、使用する人の思想にガッチリ合えば
その職人さんが良い職人と言えます。どちらかと言えば、こちらから歩み寄る?
感じの人を職人さんと解釈しても良いかも知れません。
あの人の技が欲しいから、あの職人さんにお願いすると言う感じでしょうか!

技術者とは、使用する人の要望にガッチリ合わせて理想通りの物を造る人です。
欲しい物をハッキリと言えるならば技術者に造ってもらうと思い通りの物が出来ます。
しかし、それ以上の物は上がって来ないと思いますが・・・。

酔心がお願いしている職人さんは、職人であり技術者でもあります。
常識的に変な注文をしたりしませんが、形状や厚みなどのお願いをします。
職人さんは、「ワシは厚い方が重くエエと思うんやけどなぁ〜」っと一応自分の意見を
言われます。酔心側では、「厚い包丁は最近好まれてないので。。難しいですねぇ」
っと言った話が行われます。 このやり取りの一部分を抜きとったのが酔心特集です。

酔心特集では、厚みがあり重量感のある包丁が重みで切れるから良い!などと言うのは
実は、職人さんの言葉でもあります。昔は、こうだったんだよ!って言う事を紹介している
感じでしょうか。

オーダーメイド酔心夢工房では、厚み形状などを指定して頂けます。
これを形にしてくれると言うのが、技術者的な部分でもあります。
しかし、その包丁に自分の魂(意思や想い)をきっちり入れて造られてきます。
例えば、厚口にすれば中子もバランス良く造られていたりです。
これを技術者にお願いすると、頭だけ厚口で変なバランスの包丁が出来てきます。
実際に出来てきた事があります(^^; 厚みから幅まで完璧だったのですが・・・。

古い包丁の再刃付けを依頼したら
刃先と模様部分が鏡面になってきた!
包丁を包んである紙を取った瞬間に、
光るのだからビックリした(^^;

「これでどうや?(笑)」っと言う職人さ
んの顔が浮かんできたのは言うまでも無いデス(^^)/
通常は、こちらの仕上げです。
鋼部分は木砥仕上げになってます。
上の包丁を見ると、こちらがくすんで
見える・・・。 
職人さんに翻弄されてます!!


包丁にしても、料理にしても創意工夫が出来る物などは、職人と呼ばれる方々が向いて
いるかも知れません。もっと繊細な(自動車、バイク、船!)などは技術者と呼ばれる方々
の方が良いと!! 自動車やバイクにも職人技術は必要ですけどね!

っと言う事で、修行志願者から職人さんのアレコレなどをご紹介しました。


来月は、裏押刃付か名倉砥石か北海道紀行か、新企画か(^^)/特集内容によって変わ
りますが次回の更新は少し遅れるかも知れません。
蒸し暑い梅雨の時期ですが、包丁の錆びや食中毒、体調にお気使い下さい!!

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