2006年11月期「包丁に、本当に必要な事」
 

 最近、家庭用包丁なる物を製作しました。家庭用=安価な・・・を無視して
職人さんを値段で選ぶのでは無く腕で選び、その結果から生まれてくる価格
で何とか工夫して出来るだけ販売価格を抑える事にチャレンジしました。
その事から、色々と得る事がありました。

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包丁に必要な事(物)

1.良く切れる事
2.良い切れ味が長く保てる事
3.研ぎ易くて、刃が付けが楽な事
4.長時間使っても疲れない柄
5.手入れが行い易い
6.重心のバランスなど


 鋼材の種類などを無視して包丁と言う大きいカテゴリで見ると上記の事が
良い包丁として評価される事々です。他にも色々とあるかと思いますが、
必要最低限の事柄だと思います。

 これらが満たされた庖丁は、庖丁の性能(使用)を考えた時、最良の庖丁と
言えるのではないでしょうか。

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1.良く切れる事

 この良く切れるという表現は難しいですが、本職用(仕事用)として切れる事
を言います。色々な鋼材を触りましたが、ある一定レベルの庖丁はその気に
なって研げば、切れます(^^) 白三鋼でこれだけ切れれば白二鋼、青二鋼は
必要ないんじゃ??てな事を一瞬考える事も多々あります。

 砥石との相性や鋼材に合った研ぎ方をすれば一発の切れ味は横一線?
しかし、この良く切れる切れ味を維持すると考えると次の2が重要になります。


2.良い切れ味が長く保てる事

 本当の意味で、良い庖丁とは鋭い切れ味が長く保てる事!コレに尽きます。
どの職人さんに聞いても、良い庖丁の観点は「永切れする事」と言います。
長く切れると言う事は、粘りがある(パリパリ刃欠けせず粘っこく維持する)
と言う事が挙げられます。

 単純に炭素鋼で長く切れる物を!となれば、青二鋼は長く保てるように人間が
作った合金なので、これをチョイスすれば良いと思います!
(青二鋼は白二鋼よりもまったり切れる感じがするのですが、それも長く続けば・・。)

 しかし、長く保てるからと言って、研ぐのにも時間を掛けていては仕事として使用
するのは大変です。 そこで3に続きます。



3.研ぎ易くて、刃が付けが楽な事

 良く切れて、その切れ味が長く保てると言っても、いつかは必ず研がなくては
なりません!その際に、重要なのが研ぎ易さです。
研ぎ易い=柔らかいと言うイメージもありますが、良く切れ+永切れの庖丁は
粘り硬いと言う印象があります。

 余談ですが、錆びに強い庖丁が研ぎ辛いと言うのは、粘りがある為です!
庖丁が研げないと言うよりも、庖丁を研ぐ時の泥や鉄粉?が砥石の目を塞いで
研げない感覚に陥ります。 砥石のチョイスで克服出来ます!!

 極端な例えですが、紙ヤスリでのど飴を擦るのと、硬くなった水飴を擦るのでは
紙ヤスリの目詰まり具合が変わると思いませんか?


4.長時間使っても疲れない柄

 これは重心バランスとも関係があるように思いますが、手に吸い付くような柄
が理想かと思うのですが、どうでしょう?
庖丁が手(指先)の延長となるような柄が違和感が少なく自然に使えるのでは?
っと考えたりしています。

 堺では基本的な柄のサイズがあるようで、例えば195mm出刃と210mm出刃柄の
長さはあまり変わりません。太さも大きく変わりませんが、210mm出刃に195mmの
柄を付けると手が恐ろしく疲れます(^^; 疲れる前に、違和感でストレスに・・・。

 これは中子との兼ね合いもあり、鬼手仏心と酔心白二鋼では柄の太さや長さが
若干変わっています。酔心では取り扱いがありませんが、マチ付きの出刃など
は、柄と中子とのバランスを考慮した物かと思ったりもします。

 150mm白二鋼出刃に270mm柳刃の水牛柄を付けてみました。
何の意味があるの?ですが、意味は有りません(^^;
今度何か魚を料理する時に使用してみようと思いますが、今の所何かを得られる予感は
無いのが実情です。しかし、会社に来られる職人さんやお客さんは必ず触って帰ります。
なんででしょう・・・。 刃渡りから考えて釣ったアジを捌く程度の能力かと。。。


5.手入れが行い易い

 要するに、研ぎ易いって事につながるのですがお寿司屋さんなど酢を使う調理場
では、炭素鋼の庖丁は錆びやすいと聞きます。
水洗いで取れるような錆びは少ないと思いますのでクレンザーなどで磨く事に!

 木砥目が深い(荒い)庖丁は、錆びが乗り易く取りにくいと思います。
本霞になると木砥目が細かくなり幾分錆びを取り除きやすい状態になります。
鏡面加工にした炭素鋼でも、ジワジワと錆びてきますが、木砥と比べると相当な効果があると!

 表裏鏡面にしてしまえば、炭素鋼として手入れが行い易い庖丁となりますが、
まぁエエお値段になります。 鏡面は+αの必要な事かも知れませんね。

 炭素鋼の庖丁もココまで研ぎ上げて、磨けば錆びる事に対して少し安心出来るかと・・。
切刃を光らせていますが、結果的には食材の張り付き(摩擦)が気になります。
切る度に塗らした布巾で庖丁をぬぐいながら切る必要がありそうです。
何事にも潤滑油的な物は必要ですね!



6.重心のバランスなど

 庖丁の重心を決めるのは、本体(頭)よりも中子にあると思います。
黒檀柄は別として、朴柄や一位柄などは意外に軽く柄のみでバランスを作るのは
難しいと思うのです。 とにかく、エエと言われる鍛冶屋さんの庖丁は中子が分厚く
少し長いような気がします。中子を見れば、その鍛冶屋さんが庖丁についてどう思ってる
かが解るような気が・・・。最終的に使用するお客さんの事まで考えて打ってる証拠ですね。

 庖丁を挿げる側とすれば細い方が楽チンなんですが、そんな庖丁はどこかバランスが
悪い(^^; 前重心に成り過ぎると共に、手に芯が伝わって来ない気がします。
疾風、彩、鬼手仏心などは、庖丁をコンパチすると柄にまで振動が伝わり何とも言え
ない重量感と詰まったような感じがします。


 何だかんだ書きましたが、要するに!
良く切れて、長く切れて、疲れなくて、研ぐのが楽な庖丁が良いと言う事ですね!

 基本的に、老舗級の刃物専門店に並んでいる庖丁はそのような庖丁が多いと思います。
ある程度のランクの庖丁に限るかとも思いますが・・・。

 ある職人さんから聞いた話ですが、庖丁バランスの基準は、左写真庖丁持つ人差し指付近が最良のバランスだとか!

なので、下の写真2個でバランスを見てみました。エエ部分に重心あります。
 鬼手仏心は少し柄寄りに重心が!
中子の関係かと思うのです。
うっ!となる理由はココにあるのか?
重心がフラフラしないのが特徴でした。
 通常酔心白二鋼は、庖丁寄りに重心!
これは絶対に中子と柄の関係!
柄でバランスを取る事も重要かなぁ〜
重心があんまり安定しなかった。
 ついでに例の小出刃も調べてみた!
完全に柄よりのバランス!当然か・・・。
小手先が効く感じかも。。

 撮影する時、庖丁がグラグラしたりして怖かったです。油も付いてるし・・・。
なので、店頭などでコレをしない方が良いかと!一応注意書き(^^)

 とにかく、手作業で作られた庖丁は、中子の太さや柄の太さなど重量バランスの基準は
凡そ同じですが、持った感覚で「おお!」っとなる物や、「まあ庖丁やね!」っとなる物、
色々あります。手に取った瞬間手の一部として感じられる物がお薦め!

もしも2本で迷ったら、目を瞑って庖丁を持ち直すと良いかと思います。(刃に注意!)



そ うそう!捨て刃って言うのがありまして・・・・。
昔の刃物専門店は、販売する前に小刃合わせをして販売していたそうです。
なので、問屋から出す時は刃を一回引いて(刃を殺して)出荷したと聞きました。

 どういう事やねん!って思うかも知れませんが、勝手に刃を薄く伸ばすな!って事かも
知れません。夢工房のお客さんで2人ほど「刃を伸ばさないでくれ」と言う方が居ます。
理由を聞くと、「自分で好きなように刃付けしたい!」と言う事でした。

 粘りある庖丁の刃先!爪を当ててる部分がペロっとなってるのが解るでしょうか?
これを「爪に乗る」なんて言う表現をしていますが、刃付け屋さんから上がって来た時、
既に、コレくらいの薄さまで研いであります。 この庖丁は写真に写りやすいよう、僕が
更に研ぎ込んだ状態の写真です・・・。

 牛刀なども同じですが、買ってスグに今まで使っていた庖丁と同じ感覚で使うと欠ける
のは、この事が原因です。 しかし、ここまで伸ばした方が刃の入りは抜群です(^^)
打開策は、この状態に糸引を入れると刃付けの構造上で多少耐える力を得る事が
出来るのではないでしょうか! 少し使って刃がしっかりしてきたらベタ研ぎでも・・・。

 皆さんは、買った庖丁をどうしますか?
そのまま使います?それとも本刃付してから使います?



っと言う事で、短編ですがこの辺で特集を終わります。

 次回は、硬度について! その次は庖丁の構造について!
をご用意していますのでお楽しみに!


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