2006年12月期「硬さについて思う事。」

 ようやく冬っぽくなってきました。
そろそろ忘年会シーズンでお店をされている方は忙しい時期だと思いますが、
皆様いかがお過ごしでしょうか?さて今回は、硬い事についての事を書いてみました。

これに関して、色々な職人さんに「硬い包丁ってなんで切れると思います?」的な事や、
「硬い包丁って、どう思います?」みたいな事を色々と聞いて回りました。
そんなこんなでちょっと長い特集です。(最近は記事のようになりつつ・・・。) ではどうぞ!

■庖丁の硬さを表すのにHRCと言う単位?記号を使う。

ある鍛冶屋さんの白二鋼が、凄く柔らかく感じたので少し話しを聞いてみた。
他からも柔らかいと言う指摘があったようで硬度計で調べてみた所、硬度に差は無かったらしい。

何故に柔らかいと感じるか!これは研いだらスグに判るのだ。
柔らかい鋼材ほど、チリチリ(カエリ)がつながる傾向にある。
また、ステンレス系の粘りを持った庖丁もこれの部類に入る。
このカエリが取れにくいから刃が付きにくいとか切れないと言われていると最近思っている。

逆に硬い鋼ほど、カエリはパリパリ取れる!
これは素直にカエリが取れるので、刃がスグに付き良く切れると言う事になっていると思う。
その他にも硬い方が良く切れると言われているけれども、ココでは置いといて・・・・。


硬度が同じなのに、どうして柔らかく感じるのか?
そもそもHRCロックウェル硬度って何やねん?ってな事で色々考えてみた。

庖丁の硬さを現すHRCはどうやって調べるのかと言うと表面に針みたいなのを落として、その
跳ね返り具合によって硬度を調べる方法らしい。 って事は、表面の硬さを調べるに過ぎない。
表面が硬ければ高い数値となって現れてくる。庖丁は3Dなので表面硬度が高くても内部の硬度
が低ければ、研いで減って行くと硬度が落ちてくるとだと思った。

柔らかく感じるのは、表面の硬度は同じだが内部の硬度が低くなっていると言う事では??
そういえば、庖丁は3分ほど減ったら砥石乗りが良くなる!なんて事を良く聞く。
って事はHRCは目安であってコア(庖丁内部)な部分まで、その硬度を持っているとは限らない。
その表記された硬度は、使い始めの硬度であって後々その硬度では無くなって行くのかも知れない。
しかも、それが手造りの物ならば、微妙な硬度変化も考えて置かなくてはダメだ!

本当に、庖丁の硬度やなんやを調べるならば、引き千切ってみたり折ったり曲げたりする必要
もあるのでは無いのかと思ったりする。

先日岐阜の関からお客さんが来たので、それについて聞いてみた。
思ってた通り、HRCは表面を計るに過ぎないようだ、本当に調べるのならば包丁を真っ二つに切る
か折るかして、横方向での検査が必要らしい。ちなみにこれは試験場でしか出来ない検査で気軽に
出来る検査では無いようだ。しかもHRCにはスケールとしてA.B.C・・・っと色々あるようだ。
横方向の検査はビッカース硬度(Hv)の単位。引張強度N/ってのもあったり・・・。


じゃあ、表面の硬い皮を破ってスグに柔らかい庖丁が悪いのか?と言うと、そんな事は無い。
研ぎ易いと言うメリットがあるし、刃に粘りがあれば切れ味が長持ちする。
研ぎ易いのだから、切れなくなったら研げば良いのだ!
毎日ガッツリ研ぐ方なら、むしろこの庖丁が良いと感じるかも知れない。
若干ラフな仕事をする方は、こっちの方が扱い易いハズ!!
最後のカエリは糸引き刃を付ければ、スグに取れる!
白二鋼でこのような症状が安定して出るならば、青二鋼よりも安いし鋭く切れる分ステキかも!

逆に硬い庖丁は、丁寧に使う人に向いているかも知れない。
じっくり研ぎ上げて行く人には良いと思う。
疾風や彩などは、この部類に入る。使い始めは硬い!っと思うがそれなりに研ぎこめば砥石乗り
が良くなってくる。夢工房で本刃付けをして納めた庖丁は、使い始めの砥石乗りが良いハズ。



■ここから包丁硬度の見解■

最初に紹介したHRC硬度が同じで研ぎ感覚に違いが出るとすれば、それは鍛冶屋の技術力の違いかも。
理想の包丁とは、結論的に言えば一生研ぐ事の無い包丁であるが、そんなのはムリと考えて理想を語る
と鋭く切れて切れ味が永く保てる包丁が最高である。
これを硬度を組み合わせて話しをすると、とっても難しい論理に陥りそうだ。


硬い包丁ほど、鋭い切れ味を出してくれる。理由は硬い方が鋭い刃が付くからだ!←理由になってない?
ようするに、硬いほど刃先の形状が鋭利になり、しっかりとした刃を造りだす事が出来るからではない
かと思っている。 これは硬くすれば硬くするほど刃がよれる事なく、確実に食材を捕らえて切り裂く
からだと思う。 裏押しをした時バリ(カエリ)がポロポロ取れる物は、表裏から研いで刃先の薄くなった
刃が金属疲労を起こして千切れた物がバリになる。最終的にはバリが取れた断面が刃となって刃先に残る
事となり、食材を切っていく。硬い鋼材ほど、このバリが取れるタイミングが遅く??ん〜〜〜〜〜。。
バリが取れる限界点が高い事になるのかも知れない。

他の見解として、硬い方が刃がへたる事が無いので鋭さが長く続くと言う見解もある。
シャンとした刃と言う事だと思うのだが・・・。

そんな事があって硬い包丁が切れると言われてるのかと今は思っている。



■余談■天然砥石と硬い包丁
天然砥石は、粒子が細かく滑らかで当たりの良い研ぎ味で良い切れ味が出ると言う。
砥石屋さんに聞いただけで実感はしていないが、包丁のマクレ(バリ)が出ないらしい。
これはどういう事なのか??どうしてそうなるのかは解らないが、そうなるらしい。




しかし!「硬度が高い=モロい」事になる。極端に言えばガラスは想像してみても硬いがモロい。
ガラスで包丁造ったら良く切れるやろうねぇ〜〜なんて話しを職人さんとしたが、凄い加工技術を持って
いてガラスを刃物に出来たとしたら、包丁のように薄く研いだ場合、刃がポロポロと割れて行くだろう。
むしろまな板に当てた瞬間にポロポロ・・・

ここで、硬度とは別に必要なのが、粘りである。
特殊なステンレス鋼は別として、炭素鋼で粘りを出す為には、硬度を落とす作業(焼き戻し)がある。
これで、パリパリ欠けない包丁としての鋼材となる。 これで完結なのだが、ここで終わらないのが
酔心特集で、焼き戻し以外での粘りを出す方法がある。それは叩く事だ。。
現在記事を必死に書いてる「酔心夢工房研究所:叩いた包丁と叩かない包丁」でも答えが出たが、
叩く事で、鋼材の結束強度を上げる作用が生まれる。 要するに叩いて締める(詰める)作業によって
硬くてもパリパリ欠けない包丁を作る事が出来る。また、単に硬いだけではない硬さが生まれる。



硬い包丁が良く切れる。粘りある包丁が長く切れる、また粘り硬い。
単に硬い包丁は、研ぐ事が大変な事はご存知だと思う。下手すると砥石の上で滑っている感覚になる。
職人さんも、あの高速で回転する人造水砥石(回ってる石を指で触ると皮膚が無くなる)をしても滑る感覚
を覚えると聞いた。「これはお客さんが小砥石で研げんで〜〜」ってな話しを良く聞く。

粘り硬い包丁は、中々減らないが確実に研げて行く。また、叩き込んで締めているから内部まで良く詰まって
いる感じがして、底知れない?いつまでも良いハガネ状態を保つ事が出来ると思う。まして粘り硬い特性で
減らない事が付いてくるので、研ぐ回数(正確には研ぎこむ深さ)が少ないから永く使える。。

そ〜んな事を言うと、HRC67などの包丁が良くないよ!って言ってるように思うかも知れないが!!!!
HRC67を持たせる事の出来る包丁は、ほとんどがステンレス鋼(特殊なステンです!)ZDP189などになる。
これは、炭素量が高くそれに準じてクロムも多く生まれながらの鋼材にして硬さと粘りを持っている。

このような鋼材のほとんどが粉末治金な製法で造られていて、出来上がった瞬間から土井さんが叩いた包丁と
同じような効果を持っている。。先人の知恵や技術を安定して発揮させるように鋼材屋さんが努力した結果だと!
これによって恐ろしく欠けない限り、使用者が間違った使い方をしない限り、硬く鋭く粘り強い包丁にする事が出来る。
これに合わせた人造砥石を選べば、それなりに使用出来る鋼材だと思う。


酔心でも発売をしていないが、ZDP189の尺柳を持っている。
しかし、職人さんと話し込んで結局HRC63あたりで止めている。
それでも砥石に当てた感じは恐ろしく硬い印象・・・でも恐ろしく切れる(^^)ただし!冷たい切れ味だ。
切る事だけ考えたサイボークの様な印象だが、この切れ味を味わうと。。。虜になるかも(^^;


あかん、、このままだと、もっと書いてしまいそうなのでここらで・・・終わっても良いですか??
牛刀や洋包丁の場合はね・・・。そう硬度について、こう思うんですよ〜〜。。また今度(^^;


まとめ

和包丁を選ぶ時、硬度表記に惑わされる事なく総合硬度(総合力)で選ぶべき!
ちなみに総合硬度なんて単位はありません(^^;

それでも、硬い包丁に魅力を感じるならば、その鋼材の意味や特性を知って選ぶべき!
また、自分の経験からですが、包丁を使う技術をある程度持ってから硬い包丁に走った方が良いかと思う。
その技術ってのが良く自分でも解らないんですが・・・ (・。・; 
今回はこの辺りで!

そうそう、夢工房研究所でまた実験開始してます。
コレも面白い事で、内容?目的?は炭素鋼でINOX鋼の様な刃持ちが出来たら〜〜みたいな事です。
あの切れ味が長く続くならば、超ステキだと思いませんか?
意味があるか無いか解らないですが、やってみる価値はありそうです(^^)b

第弐幕特集TOPページへ