2012年3月期 「粘りのある包丁の研ぎ」

包丁の粘りと研ぎを考える。

これまで、散々書いてきたのでご存知かと思いますが、包丁の鋭さは硬さにあり、
刃持ちの長さは、粘りにあります。これを両立させようと思うと、どちらかが犠牲になります。
硬い鋼材に柔軟性を持たせるなんて矛盾しているんです。

この矛盾を解決する為には、2つの方法があると思っています。

一つは、土井さんが作るように叩いて組織を細かくし、分子の結束力で硬さと粘りを出す方法。
もう一つは、富樫さんが作る、熱処理によって硬さを残して粘りを出す方法。

伝統的な製法を言えば、土井さんが作る包丁のように叩き締めた粘り硬い包丁に仕上げる方式です。
このような工程を経て生まれる包丁は、教科書通りに研げば確実パツンとした刃が付きます。
皆さんが思い描くような研ぎイメージとマッチし易いのかな?っと思っています。

最適な管理の上で熱処理を行った包丁は、それらの伝統的な製法で作られた包丁と、鋼の状態が
違うので、自ずと研ぎを変える必要が出てきます。

あれこれ工夫をして研ぎをされる方なら、この相違点を工夫していると思います。
ただ、各専門書などを見ていると、やはり伝統的な研ぎ方法が多く掲載されていてます。
間違いでは無いけれど。 肝を知れば早く良い刃を出せるのでは? と思う事から、記事を書く事にしました。

ここまで読まれて気になる事があると思いますが、「どちらがエエ包丁なの?」  これに行き着きます。

どちらも良い包丁です。 今でも土井さんの包丁を求める方が多いのは事実ですし、実際使われた方
からの感想や使用感などからも、実証されていますし、新しい製法で作られている包丁も、同じような
意見を多く受け取っています。

ただ、新しい製法の包丁について質問や問い合わせが多いのは研ぎに関する事です。 
この研ぎに関する問い合わせの殆どが粘りが関係する事で、問い合わせの切り口は違えど粘りに
翻弄されて悩んでしまう場合が多いです。 しかし、解決すれば、超長く切れる包丁に変貌します。

粘りがある事のメリットは、先に書いたように切れ味が長く保てる事です。
目で見た訳ではありませんが、粘りによって薄く研がれた刃が倒れない(復元する?形状記憶?)ように
思っています。 例えば、まな板に刃が当たって多少なりとも押し潰されたとしても、ビヨ〜ンっと刃が
戻って、鋭い角度を維持してくれるイメージです。 もちろん硬さがあってこその話です。

この粘りは、土井さんの結束系と富樫さんの熱処理系に分かれています。
共に、刃持ちが良い事を考えると、粘りと言う点に置いては十二分な領域に達しているように思います。
(どちらも、ビヨ〜ンっと刃先が戻るように思う。)

しかし、このビヨ〜ンの率が、熱処理系である富樫さんの方が僅かに大きいのです。
(鋼の素材自体が変化してるからか?と想像しています。)
一度刃が付いてしまえば、長く切れる包丁となるのですが、この刃が付くまでに工夫が必要になります。

新製法での粘りが研ぎの邪魔をする要因としては、「カエリが取れない。」 が一番です。
次に、良いようで悪い「薄く研げてしまう。」 点です。
注)状況によっては伝統的な製法の粘りも同じ事が言えます。

カエリが取れないのは、ある意味 「刃がヘコタレない!」 と考えています。
硬さが足りなくて、カエリが取れないのとは全く別の話です!!

表研いで、裏研いで、表研いで、裏研いで を繰り返してもカエリが取れない包丁ほど、長く切れるように思う。
もしくは、良く研げる砥石を使っていて、研ぐたびにカエリが生まれてくる場合も多々あります。
(砥石の性能、研磨力が良すぎて、想像以上に研げてしまう。)

粘りによってカエリが取れない場合、裏押しの工夫で簡単に解消できます。
色々と書くよりも、こちらはビデオで紹介します。

次に、薄く研げてしまうという点ですが、「薄く研げればエエやんか〜」「よ〜切れ込むしや〜」っと思うの
ですが、鋼の能力以上に薄く研げてしまう場合があります。鋼材の能力を超えると、刃が倒れて急激な切止みに繋がります。
研ぎが上手い人なら、刃先全部をカエリのように研ぎ上げてしまう事が出来るかもしれません、それぐらいの粘りです。

本当ならば、鋼の限界に達すると刃が千切れてくるので、研ぎを止める事が出来るのですが、粘りある包丁は
いくらでも研いで行けるからついつい研いでしまう。。。
それはそれは良く切れるので、(´Д`)ハァ… っと魅了されてしまうのですが、一瞬で切れ止みます。 
ベタ研ぎの向こう側wみたいな感じでしょうか・・。 道具としてjは、成立しません。

ここで鋼材的な話を加えると、青二鋼の研ぎが難しい。上級者向けだ!と言われる点は、ココにあるように思います。
青二鋼自体に粘りがある鋼材なので、研ぎを終えるタイミングや、カエリの処理方法を見極める必要がある!って事だと。
これをクリアした人は、長く鋭く切れる包丁を手の内に収める事が出来るのかと僕は思っています。

話を戻して、、、「薄く研ぐ事がアカンのか?そうなると、ベタ研ぎにしにくいやんけ〜」っとなるかと思いますが、
あとは、角度の問題なので、切刃の幅が狭くなって全体的に鈍角になれば、自動的に刃にチカラが出てきます。
ただし、抜けは悪くなるので、その辺の折り合いが難しいかもです。 打開策はあると思うのですが、今回は控えます。

鋼材的に、薄く研ぎたいならば、ZDP189のような超硬く、超粘りがある鋼材の包丁を選ぶと解消されると思います。
ただし、その切れ味を維持するための研ぎは、甘くないかと。。。 使い方によってはミラクルエッジが出来るかな?


粘りの話ついでに、、、洋包丁などもカエリが取れにくいです。
この事も、ビデオで紹介しようと思いますのでご覧ください。

長々と書いてきましたが、鍛冶屋も色々と工夫をして現在の調理場環境に対応しようとしています。
これは、ステンレス鋼にする!とかではなく、従来の鋭い鋼の包丁を、ポリエチレンのまな板に刃が当たる事を考えての
製造改革です。 土井さんはより叩き締め、富樫さんは最良の熱処理を探しているように思います。

鍛冶屋が変われば、包丁の性格も変わり、それに伴って研ぎや砥石も変えていく必要があるかと思います。
本当なら、そこまで説明して包丁販売するべきだと感じている今日この頃です。

調理師さんでも包丁フェチな人は、色々と調べて実験されていますが、皆がそんな時間がある訳でも無く、
切れ味や研ぎで、好き嫌いはあれど、ある一定の基準となる包丁の性格や研ぎや砥石の相性を案内する事が
重要であると感じます。

感覚の部分が多い包丁では、難しい課題ですね。 

っと言う事で、今回の特集を終わります。

 

ビデオはこちらからどうぞ!
注)面倒ですが、上の記事を読んでからご覧ください!

1.和包丁編  7:02

2.洋包丁編  5:18

 

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